南部響子さんのところで話題を振られていたのですが、やっと84話に到達しました。

 指摘の通り、三日月基地の出入りのための水陸両用車(?)の存在と機能が明らかになった回です。
 後部の4基の噴射と、底面にも噴射するエンジンがついています。

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 上陸(?)して外側を外すと普通の自動車が出てきます。

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 発進の時に開いたままの後部トランクが気になります。普通は閉めてから発進でしょう。そうでないと海水が入り放題になります。ISOの製品(?)でしょうから、操縦者が忘れていても、自動で閉まる仕組みになっていたのかもしれません。今回は、開けっ放しで動き出したから、諸君達が飛び込めたわけですが、南部博士、何だか間抜けです。よほど、デーモン博士からの連絡が気がかりだったのでしょうか。

 それはともかく、実体を見せずに忍び寄るはずの諸君が今回はなんだかえらいことになっています(笑)。

 トランクに隠れたジュンと甚平はまあいいとして。

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 屋根に竜。

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 後ろに取り付いた健とジョー。

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 はっきり言って、これは目立ちます。3人がうまい具合に、バックミラーの死角に入っていて南部博士からは見えなかったとしても、対向車からは丸見えでしょう。すれ違う対向車の運転手や助手席の人がことごとく驚愕した表情で、南部博士の車を指さしたりしそうです。こうなるとさすがに南部博士も気付きそうですが……。
 三日月基地の場所を悟られないために、かなり遠回りして人里離れたところに上陸し、時間を掛けて飛行場に向かったんでしょうかね。それなら、上陸直後はすれ違う車などなく、飛行場近くではもう暗くてそんなに目立たなかったということもありそうです。南部博士が海岸にたどり着いた時はまだ夕方の様子でしたが、飛行場での指定時刻は夜の10時で、すっかり暗くなっていました。

 さて、諸君5人ですから、全員の体重合計は200kgを超えているはずです。ただ、等速で走っている限り、重量変化を体感することはできません(単位時間あたりの燃料の消費が普段より多い、といったことで気づくかもしれませんが)。運転者の体感として重量変化がわかるとしたら、速度を変化させようとした時の応答でしょう。基地内で浮いている時に誰かが飛び乗れば、その衝撃を感じたり、重量分沈んだりしてわかりそうです。しかし、南部博士は全く気づいていません。ISO謹製の小型潜航艇兼自動車は、本体にかなりの重量変化があっても、アクセルを踏んだりハンドルを回したりした時の加速が全く変わらないように出力調整が可能な代物だったのかもしれません。無駄に高性能な気もしますが。

 冒頭のデーモン博士の言い分です。

南部か。同窓のあいつにだけは負けたくなかった。だが、国際科学技術庁のポストをとられてからは、私は長い間、日の目を見ない屈辱の毎日を送り、挙げ句の果てはこのざまだ。くそっ、南部め。平和を守る筈の科学者が、ギャラクターに殺人兵器を売り込むとは……

 一方、南部博士の説明はこうでした。

そうかもしれない。しかし、私は彼を信じたい。彼は優秀な科学者だ。公害で汚れきったこの地球を、元の緑豊かな世界に作り直そうと、国際科学技術庁が設立された。その時私は彼とともに、重要な地位の候補に挙げられ、どちらか一人が選ばれることとなった。だが彼は次点で落選し、それ以来、我々の前から姿を消してしまった。デーモン博士は世界の平和を裏切ることの恐ろしさを誰よりも知っている男だ。

 確かに地位争いはあったようですが、落選したデーモン博士は、ISOによってその後延々と飼い殺しにされて冷や飯を食わされたというわけではなくて、どっちかというと自分からさっさと出て行ったようです。

 罠かもしれないという健に対して、

君達は、私の指令があるまでここで待て。私は一人で行く。男の約束だ。

と、南部博士は一人で出かけようとしました。81話で、甚平とジョーの間の「男の約束」に理解を示した博士らしい台詞ですね。

 デーモン博士から、

テストは、まずは大成功だった。これで、君と全く逆の立場になったというわけだな。

と、はっきりと敵に回ったことを通告された南部博士。なんだかちょっぴり悲しそうです。

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 南部博士が、

デーモン、君は天才だ。だがその才能が君の良心を破壊している。いいか、目覚めるんだ、デーモン。

と説得を試みたのに対し、

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 その手を振り払って、デーモン博士の返事は、

ははは……ナンセンス。地球に平和があれば、一方には必ず破壊者が存在する。君だってギャラクターが栄えてくれるおかげで、ご立派な地位に居座っていられるじゃないか。

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 さすがに南部博士も、

何てことを言うんだ、デーモン。

と言うしかありませんでした。
 ここで「ナンセンス」って出てくるのが70年代テイストですねぇ。当時の学生たちの流行語でしたから。

 それはともかく、今回の諸君はマヌケです。南部博士の護衛をするのに、南部博士の背後を走ったため、南部博士と向き合っているデーモン博士からは丸見えで、即座に見つかる事態に。まあ、デーモン博士の背後を走ったら走ったで、今度は南部博士に見つかって「君たちはなんでここに来たんだ!」と言われそうではありますが。

 デーモン博士に写真を撮られ、爆弾を投げつけられたあと、基地に戻った諸君。
 わざわざ出かけて罠にかかったことを気にする健ですが、南部博士は、

もうよい。私もデーモン博士を信じていたのだ。

と言ってます。そのシーンの一部が下の画像ですが、諸君と博士の身長差がはっきりわかる興味深い画像になってます。南部博士、ジョーよりも長身なんですよ。最初の設定画通りになってますね。

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 この後、対策はしなきゃならんということで、南部博士%作業中。ヘリコバギーに、強力電子膜をとりつけるという細工をします。
 保護メガネつけてます。

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 外すとこんな感じ。

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 実際に、メガネの上から着ける保護メガネってのがあるので、当時のアニメに登場させるあたり、タツノコの演出は芸が細かいですね。

 諸君が再度出撃し、ヘリコバギーでスモッグファイバーの網を破り、本体に突入。白兵戦ののち、健が、スモッグファイバーの自爆ボタンを押すようにデーモン博士に迫ります。

さすがは科学忍者隊だ。褒めてやる。世が世なら、お前達はわしの部下だった。南部はいい部下を持ったな。

これが、カッツェに送った写真の焼き増しだ。記念に南部に贈ろう。1分後に自爆する。逃げられるだけ逃げろ。

さらば。南部によろしくな。

 健、デーモン博士を助けようとはしていません。一度ギャラクターに取り込まれたら、二度と逃げられないというのがわかっていたからでしょうか。改心してくれるなら助けたって良かったかもしれませんが、プライドの高そうなデーモン博士のことだから、たぶん断るでしょうねぇ。
 最後には、

南部、俺は負けた。

って言ってますが、スモッグファイバーの仕組みを言っただけで早々に対策されちゃったわけですから、今回の作戦に関しては、開発能力では南部博士の勝ちでしょう。
 その南部博士は、諸君を出撃させるまでは平然としてましたが、それでも博士なりに気にしていたようです。出撃のあとはこんなご様子。

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 写真立てが倒れた音にに気づいて振り向く。

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 写真の方はこんな状態。

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 デーモン博士の性格からいって今更降伏はしないだろうし、仮に降伏したとしても今度はギャラクターに抹殺されるのは確実なわけで、どっちにしても死ぬしかないというのは南部博士にもわかっていたのでしょう。
 
 
 
 で、ここからが本題です(前置き長過ぎだ>自分)。
 南部博士とデーモン博士が一体何を争っていたのか?ということを検討してみます。
 別冊宝島「僕たちの好きな科学忍者隊ガッチャマン」では「出世争いに敗北しISOを去った」とあります。検証70年代アニメーションの方では、南部博士とデーモン博士の争いは権力闘争の1つだろうとしています。
 しかし、きちんと見ていくと、南部博士とデーモン博士の争いというのは、ISO内部の普通の意味での出世争いとか地位争いではなさそうです。

 結論からいうと、南部博士とデーモン博士で争った「地位」とは、「マントル計画に対する妨害を排除することを主目的とした防衛の最高責任者の地位」だろうと推定できます。はっきりした役職名は語られていませんので、仮に「防衛責任者」と呼ぶことにします。

 まず今回、デーモン博士は、南部博士に向かって「ギャラクターが栄えてくれるおかげで、ご立派な地位に居座っていられる」と断言しています。マントル計画は、地球人がやらかした公害対策として始まったわけですから、ここでいう「地位」がマントル計画の責任者の地位だとすると、意味が通らなくなります。ギャラクターがいなくなっても、マントル計画の責任者は相変わらず必要で、計画の方も進められるはずだからです。したがって、デーモン博士がいう「地位」とは、ギャラクターのような、妨害してくるやつがいて初めて意味を持つものでなければなりません。「防衛責任者」であればこれに当てはまることになります。
 75話で、南部博士が

世界の安全を任された私の立場にもなってみたまえ。

と言うシーンがあります。文字通りに受けとれば、南部博士は、マントル計画の責任者であると同時に、「世界の安全」に責任を負う地位にいるということになります。南部博士の発言は、デーモン博士の言葉と一致しています。ここでも、南部博士がやっている仕事は、表のマントル計画の責任者以外に、「防衛責任者」もやっているのだということがわかります。

 79話では、南部博士は次のように言っています。

あのコンピュータールームは、シークレット回線と呼ばれる極秘事項を収納した、いわば国際科学技術庁の心臓部だ。そして、極秘作戦の1つである、君達科学忍者隊の組織や秘密が、もれなく組み込まれているところでもあるのだ。

 忍者隊の結成は、南部博士の「私兵」として始まったのではなく、ISOのプロジェクトとして始まったということが、この部分ではっきりしています。それなりに富豪らしい南部博士が費用丸抱えで結成したものなら、その内容をISO本部のコンピューターに入れる必要など全く無いからです。後からISOで面倒を見るということになったとしても、秘密のうち必要な一部分だけを渡せば良いのであって、「もれなく組み込む」必要はありません。
 さらに、92話では、三日月基地に多数のISOの技師たちが勤務していました。そもそも、8話の基地建設時でも、陽動作戦にISOの職員が多数動員されています。おそらく、建設に従事したのもISOの人たちでしょう。忍者隊のメカにしても、壊された後、技師たちが大勢で作り直しているシーンがありました(67話)。南部博士自身は、ISOの情報部の指揮を執れる立場ではなさそうですが、全面的に情報部の協力は得ているようですし、逆に情報部の作戦のフォローのために忍者隊を出動させたりもしています。国連軍とは、出動の要請ができる程度の協力関係にあるようです。これらのことから考えても、南部博士の裏の仕事はISOの「防衛責任者」であることがわかります。
 ところが、第1話で、タートルキングが現れた時、ISO長官のアンダーソンでさえも、科学忍者隊の存在を知らず、ギャラクターが本当の敵だということを掴んでいた様子もありませんでした。その後、直接指令を出せるようになったようですが、居所や正体はやはり知らないままでした。これは、計画の全貌を知るのは「防衛責任者」のみであったことを意味しています。おそらく、極秘でやらなければならない仕事であったため、一旦、南部博士に委任された後は、プロジェクトに関わる人間の人選から計画の実行まですべて南部博士が行い、具体的な内容は秘匿していたのでしょう。機密保持というのは、知っている人間が少なければ少ないほど容易です。実際、ISO本部にはスパイの手が及んでいても、三日月基地のスタッフにはスパイはいませんでした。人選の仕方がそれだけ厳しいものだったからでしょう。
 これで、南部博士の裏の仕事が「防衛責任者」だということが大体はっきりしました。
 さて、南部博士によると、過去に、南部博士とデーモン博士は「重要な地位の候補に挙げられ、どちらか一人が選ばれる」という状態だったようです。もし、この「地位」が、表側の、例えば「マントル計画室長」の地位であれば、次点のデーモン博士が立ち去る必然性が乏しいのです。南部博士に「君は天才だ」と言わしめるデーモン博士ですから、才能の方は相当なものであったはずです。重要な地位の候補になる程度にはISOで成果を出してきたのですから、何もわざわざ出て行くことはないでしょう。堂々とマントル計画のナンバー2におさまり成果をあげて実力で南部博士を追い落とせば済む話です。それでもやっぱり同窓の南部博士が直属の上司にいるのが目障りだというのなら、ISOは巨大組織ですから、マントル計画の責任者と同程度の権限を持った地位は他にもあるはずで、そちらを狙ってゆくゆくは長官になることでも考えれば良いのです。そうなれば、デーモン博士は晴れて南部博士の上司です。ところが、デーモン博士はそのままあきらめて出ていってしまいました。これは、一旦争いに負けたら、実力で奪い返すのがほとんど不可能な地位を争っていたことを意味します。争っていた「地位」が、その存在自体が秘匿される「防衛責任者」であれば、表の業績をいくら上げても奪い返すチャンスはまずありませんので、デーモン博士の行動とは矛盾しません。
 南部博士は、「デーモン博士は世界の平和を裏切ることの恐ろしさを誰よりも知っている男だ」と言ってますが、これは、過去に「防衛責任者」の地位を争った間柄だったからではないでしょうか。与えられるであろう権限が極めて大きい「地位」で、それだけ必要性も高かったのでしょう。それを争ったということは、「世界の平和の維持の重大性」はお互いの共通認識でもあったはずです。こういった背景から出てきた南部博士の発言ならば十分に納得できます。南部博士って、お世辞は言いませんし、無根拠に他人を信じる脳天気な楽天家でもありませんから。
 今回、デーモン博士はギャラクターに兵器を売り込んで南部博士に挑戦してきます。南部博士と「地位」を争って負け、その「地位」に対する挑戦が、敵に回って攻撃をしかけるという行動だったということを見ても、南部対デーモンの争いは、「防衛責任者」の「地位」をめぐってものであったと推察できます。

 「地位」の争いの内容は、世界の防衛をどういう方針でやるか、という争いでしょう。
 忍者隊もギャラクターも、1話でやっと南部博士によって語られた存在です。デーモン博士との争いの時には、忍者隊を作って対処するとか、対処の主な相手がギャラクターだといったことは、まだはっきりしていなかったと思われます。
 この部分を考えるのに、参考になると思われるのが、南部博士の価値観です。南部博士は、心が人間の主体であって体は入れ物だという、近代的なヒューマニズムを受け入れた科学観の持ち主です。IIでジョーがサイボーグになったときの扱いを見るとよくわかります。人工の体でも心がジョーならそれはジョー、ということで、事実を知った南部博士は、驚きはしましたが、ジョーがサイボーグであることを当たり前のように受け入れています。体がヒトでなくなったと悩んでいるジョー本人とは全く対照的で、そもそも体がヒトでなくなったことを悩むという発想自体が南部博士には無さそうです。少し後にも書きますが、南部博士は人間中心主義者として、一貫性のある態度をとり続けています。従って、南部博士が提案した防衛方針が、人間を中心にしたものになることは明らかで、実際、メカも使うが基本は人間の能力を高めて対処する、という忍者隊の結成に行き着いています。
 一方、デーモン博士はどうかというと、南部博士ほど人間中心主義には徹していなかったと思われます。南部博士に挑戦するのに、高性能なメカであるスモッグファイバーを繰り出してきただけでした。南部博士と同じ発想をするのなら、特殊部隊の1つでも作って差し向けてきそうなものですが、目一杯メカの性能に頼るという作戦でした。カッツェから出された条件が忍者隊の素顔撮影であったこと、南部博士に対するわだかまりがあったことから、本人が操縦していましたが、単に攻撃するだけなら、自動操縦でも問題なかったはずです。
 ここから先は私の想像なんですが、デーモン博士の提示した防衛方法が、人間を不安定要素として排除する方向のものであった場合、ISOは採用したがらないでしょう。また、今回の作戦からみて、デーモン博士がそういう内容を出した可能性もそれなりにありそうです。
 いずれにしても、デーモン博士との争いに勝った後で、南部博士は、ギャラクターという敵がいることを突き止めたり、対応策として忍者隊を結成したりしていたのでしょう。時期的に見ても、争いの当時の諸君はまだ小さすぎますし、争った時にすでに忍者隊の話が出ていたとしたら、デーモン博士はもっと楽に忍者隊の正体に迫っていたはずですので。
 
 
 さて、(以前にここのコメント欄でも取り上げましたが)、OVAガッチャマンの小説版2巻(ソノラマ文庫)の後書きで、柿沼さんが、南部博士の設定について次のように書いていた件について。だいぶ本編を見直して一部書き換えなければならなくなったのでやっておきます。

 最後に南部博士だが、彼は生涯を通しての独身主義者。自分の才能を冷徹なまでに客観視できる男で、自分の”使い道”を決定する。学者肌だが、リーダーシップにも富む。きっと職務を終えた時(例えば六十歳になった頃)すごく若い女性と結婚でもするのだろう。
 リーダーシップを大きく二つに分けると東洋的なそれと西洋的なそれとに分けられる。前者は人のやがる仕事を黙々と行い、その行為に打たれて人々がその人を慕い、尊敬し集まってくるという物。後者は中世ヨーロッパの国王のそれで、実力を常に人々に誇示し他人を従わせるという物(あの、勇壮、華美な城や宮殿たちは、そのために必要だったのだ)。TVシリーズではあくまでも前者であった南部博士だが、時代の推移を鑑みるに小説版では後者に軍配が上がった。設定画のあの華美な氏の服装を見てもらえればそれが判るだろう。
 国際社会においても後者の方が通りがよい。まず何はさておいても”実力”が必要で、次にそれをいかにうまく人々に表明してゆくかが、リーダーには必要なのだ。私にはこれだけの揺るぎない実力があり、その結実たる結果がここにある!従って次のプロジェクトの中心人物は当然ながらこの私が務めるのが必然だろう。客観的にみてもそれが正しい!という行き方である。
 日本的に言うとこれは傲慢と言われかねないが、それは偏見だ。南部は、世界の運命は自分が握っている。だから皆さん、私に惜しみない助力をしてほしい……という立場で行動しているのである。彼にはその精神にも服装にもスキがない。21世紀中盤においては近視も遠視もたちどころに治ってしまう(丁度今日の歯科で虫歯を治療するより簡単にだ)。従って、南部のメガネはファッションである。サケ・カクテルを愛飲。ノースモーカー。

 柿沼さんは、TV版の南部博士を「東洋的なリーダー」だと考えていたようですが、私はこの見方には反対です。今回書いたような経緯で「防衛責任者」をやっていたのだとすると、TV版の南部博士はむしろ典型的な西洋的リーダーシップの持ち主だと考えないと話が成り立ちません。

 そもそもISOは、無計画に公害を垂れ流してまずいことになったから、科学技術の力でもって地球を作り変えようとしてできたとされています。これは、最近流行の「地球環境」をテーマにした物語(自然対人間の対立軸がある)とは、方向性がまるで違っています。自然を回復させるのも動物を保護するのも人類にとってその方が都合が良いからで、人為的に介入してやってしまおう、ということなので、主体は常に人間なんです。ISOの他のプロジェクトも作中に出てきますが、その内容は「すべては人類のために」に集約されています。こいう組織のトップに上がるとしたら、西洋的な意味で徹頭徹尾ヒューマニスト、つまりは筋金入りの「人間中心主義者」でしょう。そうでなければ、そもそも信用されませんし、ISOの方向性とも矛盾します。
 南部博士は、おそらくは「防衛責任者」として、大規模基地建設をやって運用もしていて、スタッフの協力も得られています。どう考えても「皆さんの助力が得られるならば、人類の未来は私が保証する」って姿勢を誰にでもわかるように出していない限り、基地建設に大人数を動員するのは無理でしょう。人の嫌がる仕事を率先して……みたいな曖昧なメッセージの出し方では、人はついてきません。軍事基地って攻撃目標でもありますから「南部博士に従っていれば生き残れる可能性が最も高い」ということや、「その仕事が人類の未来を決める重要な仕事である」といった動機づけがなければ、誰も協力しないでしょう。機密保持のためになかなか表に出れないということと、他人が嫌がることを目立たないように引き受けて信頼を得るいうのとは、全く別の話です。
 ISOは、価値観の多様な(そして多分西洋的価値観で動いている国が多数の)世界で、各国政府の信任によってある程度の判断を委ねられるだけの権威を備え、国連軍の指揮すら執れる権力を持っています。TV版の南部博士は、そういう組織で極秘任務であるとはいえ「防衛責任者」の任にある人物です。最後は長官就任ですが、自分が権力者になること、権力者であることの意味については、多分に自覚的で、ノブレス・オブリージュの塊みたいな人物です。権限と資金(おそらくは膨大な金額の使途不明金が発生)が長期にわたって集中するわけですから、俗物がこの地位に就いたのでは早晩腐敗して内部から瓦解します。
 
 
 それはさておき、2000年代に入ってから、USAで、Battle of the Planets(ガッチャマンのUSAでの放映タイトル)のカラーコミックスが出版されました。登場人物の名前が変更されてまして、南部博士はAndersonと呼ばれています。このAndersonの肩書が、”ISO Chief of Security”だというのが興味深いですね。南部博士とデーモン博士が争った「地位」とは、まさに、”ISO Chief of Security”であったのだと思われます。



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このエントリーは 2010/6/15(火曜日)-21:19 に、カテゴリー 初代に投稿されました。 RSS 2.0 feedを用いて応答を追跡できます。 You can skip to the end and leave a response. Pinging is currently not allowed.

2 個のコメントがあります


  1. 南部響子 on 2010/6/16(水曜日) 14:22

    涼さんこんにちは。
    記事内リンクをありがとうございます。
    テンプレが替わりましたね。私のPCでもすごく見やすくなりました♪

    博士の車に貼り付く(笑)諸君ですが、これはテレビに前のよいこたちにもよくわかるように描かれているだけで、実際はやはり忍者なので実態を見せずに忍び寄っていたと思われます(苦笑)
    デーモン博士の「ギャラクターが栄えてくれるおかげで、ご立派な地位に居座っていられるじゃないか。」という言葉はいまや「地球の平和を守る正義の味方」の大将(?)となった南部博士への皮肉じゃないかしら。

    ガッチャマンは随所で「正義とは?」という問題を投げかけてきます。
    正義のために人を殺してもいいのかと紅パパのお墓の前で悩む健や、復讐の結果が皮肉にも地球を救うこと(正義)になるジョーなど、その形は様々です。
    正義のための戦いに巻き込まれた人に謝る場面さえあります。

    今もこうしてこの作品に根強いファンが多いのは、ただ「よいこたちのための勧善懲悪なお子様番組」だけで終わっていないところにその秘密があると思います。

    うふ♪それにしてもこの南部博士はス・テ・キ(*^.^*)

  2. 裕川涼 on 2010/6/16(水曜日) 17:16

    南部響子さん、

     訪問ありがとうございます。
     何であの前のテンプレ、見えづらかったのかが謎です。今のテンプレは、メインの日記帳のテンプレのオリジナルです(日記帳の方は画像を差し替えた)。

     保護色のシートとかかぶってくれたら、隠れてるというのがわかりやすかったし、ついて行ってることが子供にもわかったのに(笑)>諸君。

     デーモン博士の台詞は、私も、最初見た時は単なるあてつけかと思ったんですよ。でも、他のシーンとの整合性まで考えると、端的に事実を述べているとした方が説明しやすいと考えたので、今回の記事を書きました。
     南部博士って、マントル計画をきっちり進めてて、別にギャラクターが来なくても成果も出て名声も高まりそうな感じです。「正義の味方の大将」の仕事って、本来のマントル計画にとっては明らかに余分な仕事で、その立場になったことで南部博士はちっとも得してないですし。手間が倍増しただけで(汗)。

     正義にもいろいろありますが、単純な「功利主義」を採用してはいないということでしょう>ガッチャマン。もし、最大幸福原理でいくなら、犠牲者を出すことは容認できちゃいますから。

     私は、勧善懲悪というよりも、中に含まれている科学観が興味深いです。結構前向きで楽天的な部分があって、それが時代ってものなのかなあ、と。もともと企画書だと、科学に支配されたギャラクター対科学を良い方に使う人類、といった構図だったようです。

    >うふ♪それにしてもこの南部博士はス・テ・キ(*^.^*)

     南部博士のキャプ、コレで良かったですか。何枚かキャプして、多分このへんかと思うのを出したんですけど、お好みのものにヒットしてて良かったです。

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