Reeさんのところで望遠鏡についてツッコミが出たのでそれも含めて補足。

 ところで、他にも問題有りのシーンが。シラカバ牧場前に甲児君がTFOで着陸し、宇門博士がやってきたところ。
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 宇門博士の背後の、特殊バスのドアに注目してほしい。蝶番がドアの後ろ側にある。これって、設計上有り得ない。バスが進むと、前から風をうける。何らかの原因でドアの閉め方が甘かったり、故障したりしていた場合、走っている最中に風圧でドアが90度開くかもしれない。で、開いたが最後、停車するまで多分ドアは閉められない。力一杯引っ張ったって、多分、前からの風圧に負けてしまうだろう。
 どうしても後ろにドアを開きたければ、スライド式にして、風圧をほとんど受けないようにする。現実の自動車はすべてそうなっている。
 宇門博士が降りてきた瞬間の全身像を出したかったのだと思うが、そのため、ドアの開き方がえらく危険なことになっている。

 次が望遠鏡のシーン。研究所に近付いていくところはこんな感じ。
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 研究所を上から見た図はこんな感じ。
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 この時の宇門博士の台詞が、

宇門「あれが、この研究所自慢の宇宙望遠鏡だ」

となっている。
 望遠鏡まわりの文芸資料がどうなっているかというと、

■ドームの上のパラボラは「電波望遠鏡のアンテナ」(設定画、研究所初期バージョン断面図)
■「ドームの屋根の内側が電波望遠鏡のアンテナになっている」(設定画、研究所初期バージョン俯瞰)
■中央スクリーンの説明「電波望遠鏡がセットされた時だけ左右から映写スクリーンが移動してひとつになる」(設定画、観測室①)
■上部スクリーンの説明「望遠鏡がセットされた時のみ天井が左右に開き、空が肉眼で観測出来る」(設定画、観測室①)
■「宇宙望遠鏡アンテナ」(設定画、新研究所断面図)※但し、「電波望遠鏡」の「電波」に線を引いて消して、「宇宙」と書き直してある。魔神全書には書き直し前の図が掲載された。
■林明はレーダー係、山田は電波望遠鏡操作室係、佐伯がコンピューター係(シナリオ36話)
■世界最大の宇宙望遠鏡が取り付けられている(テレビマガジンS50.12)
■「司令室の上に世界最大の宇宙望遠鏡がある」(UFOロボグレンダイザー大百科、エルム)
■研究所初期バージョン断面図の説明で「宇宙科学研究所じまんの電波望遠鏡」(テレビランドワンパック UFOロボグレンダイザー図鑑)
■「世界一の天体望遠鏡がある」(スーパーロボット3大全科)
■「世界最大の宇宙電波望遠鏡がある」(スーパーロボット大図鑑)
■「巨大な観測用ドームや電波望遠鏡などの装備を持っている」(テレビマガジン特別編集 マジンガーZ大全集)

といった具合である。
 本編、シナリオとも、注意して確認したが、「電波望遠鏡」と「宇宙望遠鏡」の区別はしないで使われている。

 「宇宙望遠鏡」は、地球の衛星軌道上などの宇宙空間に打ち上げられた天体望遠鏡を指す。だから、地上のパラボラアンテナに望遠鏡としての機能があったとしても、それを指して「宇宙望遠鏡」と呼ぶことは無い。一方、「電波望遠鏡」は、電波を観測していれば、地上にあろうが宇宙にあろうが電波望遠鏡である。

 つまり、本編を見ても文芸資料を見ても、望遠鏡まわりについては、一体何がなんだかさっぱりわからない記述になってしまっているのである。

 次に、甲児君を案内して観測室に来て、望遠鏡を作動させた時のシーン。
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 メインスクリーンは暗い星空なのに、窓の外は真っ昼間である。どう見ても、相当上空から宇宙空間を観測した画像になっている。さらに、他の回でも、円盤獣が攻めて来た時に望遠鏡で観測するシーンがしばしば出てくるのだが、映像はすべて、普通に可視光で見たものになっている。
 電波による観測では、電波の強度分布を画像処理して表示したりするため、光学観測の画像とは似ても似つかない映像になる。

 研究所のドームの上にあるパラボラアンテナは、地上にある以上は「電波望遠鏡」であるかもしれないが「宇宙望遠鏡」ではない。「宇宙望遠鏡」はおそらく軌道上に複数個あり、そのデータを研究所ドームの上のパラボラを使って受信したりということはやってりいるかもしれない。パラボラを指して「宇宙望遠鏡」と呼んでいるシーンは、軌道上の望遠鏡のシステムの一部だからそう呼んでいる、と解釈するしかない。

 宇門博士が素でデタラメを言っていた、とするのはあまりにもアレな解釈になってしまう。

 日本語で、電波天文学のまともな教科書が出たのはおそらく1988年である(「宇宙電波天文学」赤羽・海部・田原著、共立出版)。これが出て初めて、論文や洋書を読まなくても、電波による観測の原理や設備について、普通の人でもちょっと大きな書店で本を買ってくるだけで、知ることが可能になった。野辺山のサブミリ波の45m鏡はその前から動いていて、成果がたくさん出たので、日本でも教科書を、ということになった。これ以前に、電波天文について知ろうとしたら、海外の専門書を見るか、論文を見るくらいしか手が無かったはずである。
 可視光の範囲を天体望遠鏡で観測するアマチュア天文マニアは大勢いたが、電波天文は必要な機材も知識もまるで違うので、手出しが可能なアマチュアは居なかったのではないだろうか。
 おそらく、当時は、「電波望遠鏡」は、一般の人にとっては新規で珍しかったのだろう。そういうものをガジェットとして取り込みたがるのは、SFアニメにはありがちなことである。ただ、よほどのマニアか専門家に近い人が居ない限り、電波望遠鏡とはどういうもので、どんな画像で観測結果が出てくるのかを知ることは難しかったと思われる。
 もし、リメイクする機会があったら、研究所の設備の設定をきちんと詰めて欲しい。今なら十分な情報が比較的簡単に手に入る。

 私も、二次創作を書こうとしたときに扱いに困ってしまい、結局、
■ドームの上のパラボラは基本は電波望遠鏡。
■但し送信機能もある。
■宇宙望遠鏡は軌道上にいくつかあって、光学観測を始め他の波長でも観測をしている。(∵研究所が有人ミッションをやるほどに打ち上げ能力があるなら、宇宙望遠鏡の軌道投入は楽勝のはず)
■宇宙望遠鏡からのデータを受信するとか、探査機に信号を送るといった用途でも、ドーム上のパラボラが使われる。(∵まあ、本編での呼び方でも一応できるだけおかしくないようにしたい)
■レーダーは別で、平板のフェーズドアレイがある。(∵レーダー動作中にパラボラが360度高速で回り続けているわけではないし、レーダーで見ながら宇宙望遠鏡の画像黙したりしているから別に動作しないとおかしい)
といった解釈にしている。

 単一鏡で世界最大の可動電波望遠鏡としては、ドイツのエッフェスベルグの100m鏡がある。このサイズを基準にして、研究所のパラボラはこれ以上、ということで見積もろうとしたのだが、英氏に反論を出されて結論が出ていない。

 もう一つ、面白いのがスイッチの方向である。電源でも何でも、壁などにとりつけられているスイッチは、安全のため、上に動かすと入るようになっていて、人がうっかり持ったまま倒れたり、引っかけたりしたときには切れるようにしている。
 これを守らず大被害になったアニメには、映画の銀河鉄道999の時間城のシーンがある。機械伯爵が時間を進めるレバーを握ったまま鉄郎に撃たれて倒れ、そのままスイッチON。時間が進んで城が全部崩壊した。スイッチの設計がまともだったら機械伯爵は死んでも時間城は残ったはずである。
 それはともかく、グレンダイザーの設備回りを見ると、観測室の所長の机の前の宇宙望遠鏡のスイッチ以外は全部手前あるいは下に引っ張るとONになるという描かれ方をしている。正義側も敵側も変わらない。ところが、マジンガーZでは、電源ONは全てスイッチを上に倒すシーンで描かれている。現実に即しているのはZの描写の方である。スタッフの中に、誰か設備に詳しい人でもいたのだろうか。