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11.黒い太陽の中の悪魔

ストーリー紹介

 スカルムーン基地では,度重なる作戦の失敗でブラッキーがヤケ酒をあおっていた。ガンダルはブラッキーを呼びつけ,地球の主な天文台を破壊せよと命じた。明日の皆既日食の観測を邪魔することと,日食が起きるときにグレンダイザーを月の本影に誘い込めといった。これによってグレンダイザーの調子が狂うだろうと考えたのだ。

 牧場家では団兵衛が日食観測の準備で,ガラス板にロウソクのススをつけていた。大介はギターを弾きながら,月を見ていた。ベガ星連合軍の動きが気掛かりで,側にいるひかるの言葉も耳に入らないようだ。団兵衛が,ひかると二人でいることをとがめにきたので,大介は立ち去るのだった。宇宙では,ブラッキーが天文台爆破の命令を出していた。

 翌朝,何となく空が暗く,鳥も動物も落ち着かない様子だ。団兵衛,吾郎,ひかるは牧場から日食を見ていた。甲児と大介は研究所で観測の手伝いをしていた。研究所では,マザーバーンの接近をキャッチした。甲児は様子を見に行くと言うが,宇門所長は観測の持ち場を離れるなと命じた。正午から1時過ぎにかけて,世界各地の天文台が破壊されたという連絡が届いた。宇門は,甲児にはそのまま観測を続けさせ,監視飛行には大介を行かせた。

 ブラッキーは,ミニフォーで攻撃しつつグレンダイザーを月の本影へと向けさせた。宇門は,深追いするなと言うが,デュークは今日こそ何とか母船をやっつけたいと,追っていった。電離層内の月の本影にさしかかると,グレンダイザーの計器が狂い,うまく操縦ができなくなった。研究所でその様子を見ていた甲児は,宇門の制止もきかずに飛び出していった。

 グレンダイザーは急速にエネルギーを失い,武器を使うことも通信することもできなくなった。マザーバーンからのミサイル攻撃と,円盤獣バリバリの攻撃に,まったく反撃することができない。ブラッキーはグレンダイザーにとどめをさそうと,マザーバーンの大型ビーム砲でグレンダイザーを攻撃したが,間一髪でTFOがミサイルでグレンダイザーを移動させることに成功した。ブラッキーは,バリバリをTFOに向かわせ,マザーバーンでグレンダイザーを倒そうとしたが,またもTFOのミサイルでグレンダイザーが移動し,ビーム砲は外れてしまう。円盤獣バリバリは,グレンダイザーに組み付いて攻撃を始めた。甲児は,TFOで光を反射させてグレンダイザーを照らした。エネルギーを回復したグレンダイザーは,スペイザーと分離しバリバリを振り切った後,本影の外でスペイザークロスしようとするが,バリバリに邪魔されてできない。バリバリとグレンダイザーは組み付いたまま,地表に向かって落下を始めた。地表付近でバリバリの自爆を察知したグレンダイザーは,反重力ストームでバリバリを引き離して難を逃れた。そのままスペイザークロスして再び上昇,マザーバーンへの攻撃を開始する。退却するマザーバーンを追うデュークを,甲児は引き止めた。

 日食が終わって快晴の空の下,グレンダイザーとTFOは帰還するのだった。 

架空座談会

宇門「大介,もう少しギターを大事にできないのかね?ほらここのシーン,団兵衛さんが来たら,お前はギターを置き去りにして走り去ってるね。第1話ではギターに八つ当たりしてたし……」
大介「すみません……やっぱりベガ星の動きが気になってまして」
宇門「いろいろ世話になっているひかるさんの話もろくに耳に入ってないようだったしねぇ」
大介「正体を隠すためには,黙ってるしかありません」
宇門「ギターを片づけてくれたのはひかるさんじゃないのかね」
大介「はあ……」
宇門「ちゃんと礼を言っておきなさい。しかし今回は儂も驚いたよ。日食程度でグレンダイザーの動きが異常になるとは……『どうしたんだ,グレンダイザーともあろうものが!』って思わず叫んでしまったよ」
大介「ごくまれに起きる不調だったようです」
宇門「というと?」
大介「日食で電離層の状態が変わってしまったこと,月と地球と太陽の配置でできる重力の分布,それと光量子が不足するという条件がいけなかったようで……」
宇門「悪い組み合わせが重なったということかね?」
大介「通常の飛行なら,異常が起きても何もせず慣性にまかせてしまえば,すぐに脱出できるのですが,今回は戦闘を行うために無理に調整しようとしたのが裏目に出ました」
宇門「要するに,エネルギー供給が期待できない場所で,むやみに操作しまくった挙げ句,蓄えていたエネルギーまで全部失って,武器も通信も不可能な状態になったということか。一体何をやっとるんだね?もうちょっと考えて操縦しなさい」
大介「すみません……」
宇門「少しは甲児君を見習いたまえ。お前のグレンダイザーに比べればオモチャみたいなものかもしれんが,機体の特徴をよく理解して,100%以上の能力を引き出しているんだぞ!」
大介「そりゃ,甲児君はTFOの開発者だから……僕はグレンダイザーの開発者じゃないし……」
宇門「言い訳する位なら操縦の腕をみがきなさい!まったく,そんなことでよく銀河を越えられたものだね」
大介「やっぱり,この2年のブランクは思ったより大きいようです。ただ,飛ぶだけなら,ほとんど何も無い空間でも光量子はありますし,グレンダイザーの中にいるかぎり安全ですから」
宇門「機体の性能に頼り過ぎているから,技術がなかなか上がらないんじゃないかね。でも,確かにグレンダイザーは異常に丈夫だねぇ。今回も動けないだけで,円盤獣の攻撃でもまったく壊れない」
甲児「大気圏を落下して,空気との摩擦で赤くなっても,燃え尽きて流れ星になったりしない。大介さんにも影響なし,ですもんね」
大介「まがりなりにも守護神だからね,そう簡単に壊れないようにできてるんだよ」
宇門「ところで大介,シューターの感想はどうかね?」
大介「感想……ですか?」
宇門「今回から出撃の方法が変わっただろう?観測室のある階から格納庫までほとんど真下に飛び降りていたのをやめて,シューターに乗ってらせん状に降下するようにしたんだ」
大介「特に問題はありませんが……」
宇門「あのな,お前が2回もバギーバイクを放り出して変身したから,今度はいくら放り出しても壊れず確実に回収できるシューターを準備したんだよ」
大介「はっ……はい?」
宇門「今後はシューターで出撃しなさい」
大介「わかりました」
宇門「まったく,乗っていたものを放り出して変身するのが趣味なのかね。フリード星人の趣味は私にもよくわからんよ……」

SF的考証:日食と光量子

 グレンダイザーのエネルギー源は「光量子」とされている。実は,普通の科学の世界でも光の粒子のことを光量子と呼ぶのだが,グレンダイザーの世界の「光量子」はこれとは別物だろう。普通の光で動いているとしたら,恒星から離れるとすぐにエネルギー供給に不安が出てくるだろうが,グレンダイザーは恒星間飛行など簡単にできる代物である。だから,普通の光で動いているとは考えられない。おそらく,似たような名前の未知のクリーンエネルギーを効率良く利用しているのだろう。光量子が光そのものではないことは,ダブルスペイザーで高高度を飛行しながら光量子を収集したり,はるか上空に漂う光量子を見るための光量子アイレンズが登場したりといったことからもわかる。単に光を使っているだけなら,わざわざダブルスペイザーで飛び出す必要もアイレンズを開発する必要もなく,地上で日光を受けるだけで済むはずだ。

 甲児がミラーで太陽光を反射させると,グレンダイザーのエネルギーゲージが回復したことから,光量子は,光と同じものではないが,光の多いところに多いという性質はありそうだ。

 グレンダイザーが不調となったのは電離層とされているが,映像を見るとかなり月に近いように見える。これは望遠鏡で拡大したことによるのだろう。ただ,相当上空での話であることも確かなので,電離層の上限ぎりぎりの400km程度の高度,F層あたりで起きたことだろう。電離層ということは,まだ大気圏内であるから,かろうじてTFOも到達できたわけだ。グレンダイザーは落下しているように見えないので,ラグランジュ点あたりまで行ってるように思えてくるのだが,実は11話ではまだ大気圏のはずれのあたりで戦っていたのだ。

 11話では,
宇門「甲児君,わしの考えでは,日食による電離層が計器を狂わせ,また,太陽光線からエネルギーを吸収しながら動く光量子エンジンは,太陽が完全に隠れた今,その燃料が次第に消耗しているのでは……」
というせりふが出てくる。宇門にとっても,光量子の性質はまだ完全にわかっていないのだろう。このことが,日食観測の重要性を裏付けることになる。

 ロケットを飛ばす時代に,世界各地の天文台で日食の観測を重要視しているというのは,ちょっとおかしな話だ。吾郎がいみじくも指摘したように,天文学的には月と太陽が重なるだけのイベントで,いつ起きるかといったことは全てわかっており,今更わざわざ日食そのものを観測する意味はなさそうである。しかし,現実の科学でも日食観測が重要な意味を持ったことがあった。そう,巨大な重力で光が曲がるということの実験的証明で,日食のときに,位置が太陽の裏側で見えないはずの星が見えることを観測したのだ。さて,グレンダイザーの世界は,フィールド推進だの慣性制御だのという技術がもたらされ始めた直後で,グレンダイザーに倣って技術を利用するなら,光量子の性質をきちんと調べる必要がでてくる。おそらく,日食のときを利用して光量子がどう振る舞うかといった基礎データをとらなければ始まらない状態だったため,今回,日食の観測が非常に重要とされたのだろう。世界各国で観測しようとしたのは,宇門によって,光量子の存在と技術的応用の可能性が,学会で発表されていたからに違いない(科学者なんてのは,自分がちっとも信じてない異端の説に関することがらであっても,観測で白黒つけられるなら喜んで観測するものだ……その説を葬り去るために)。