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絆 4

by Ree


 ヒュゥゥー ヒュゥゥゥー
 冷たい風が音を立てて吹いていた。
 大介は、研究所で一番高い、ヘリポートにいた。
 コンクリートに座り込み、片膝を立て遠くを見ていた。
 風が大介の髪を揺らしていた。
 大介は、情けなかった。自分の事で周りの人が傷つくのが耐えられなかった。もうどうしたらいいのかわからなかった。
 宇門に殴られた頬がキリキリ痛んだ。そしてそれは宇門の心の痛みにも思えて、また胸が苦しくなった。
 (……父さん……)
 頬を手で押さえながら大介は瞼をぎゅっと瞑り、そのままいつまでも動かなかった。
 
 ヒュゥゥー ヒュゥゥー
 ヘリポートにたどり着いた宇門は、絶句した。
 冷たい風が吹く中、小さくなって肩を震わせている大介に、なんと声をかけたらいいのか……。
 自国を追われ、たった一人になって、やっと安住の地を見つけたと思ったら、地球の存亡を一手にその肩に背負わなければならなくなった。そしてそれは、自分の命と引き替えだった。誰にも何も言わず、すべて自分の胸の内にしまい込み、ただ一人で藻掻き苦しんでいる。まだ二十歳そこそこの若者が、これほどの使命を受けなければならないのか?
 それが彼の運命なのか?受け入れる以外に方法はないのか?
 受け入れるしかないのなら……神様というのは、なんと残酷なんだろうか。
 宇門は、少しでも苦しみを和らげてやりたいと切に願った。
 宇門は大介の側に行き、その肩をそっと抱いた。
 (!?……)
「大介、こんなところにいつまでも居たら、体に障る。部屋に戻ろう」
 宇門は小さな子を諭す様に声を抑えて大介に言った。
 大介は、顔を背けながら小さい声で、
「……父さん……僕は父さんを苦しめるつもりはなかったんです。……ただ……僕は……」
 そういって大介は、また顔を伏せた。
「大介……もういい……何も言うな」
 そういって、そっと大介を立ち上がらせた。
 
 
 キキキキー!
「え?なんて?」
 ひかるは、急ブレーキをかけた。
「いえ、さっき、先生と大介さんが言い争っていて……先生が大介さんをひっぱたいたみたいだったから……私は、外に居たから話の内容はわからなかったんだけど……でも先生が凄い剣幕で……」
 と夕子は、さっき見聞きした事をひかるに話していた。
「それから先生は、かなり落ち込んでる様だったから……」
「……珍しいわ。おじさまがそんなにお怒りになるなんて」
 ひかるは不思議に思った。
 (大介さんに手を挙げるなんて……そんなこと考えられないわ……)
「あのね、ひかるさん……もしかして喧嘩の原因って、私の事ではないかしら?」
 とひかるに尋ねてみた。
「え?」
「私、昨日突然来て、自宅にまで押し掛けていったでしょう。知らない女が急に家の中でうろうろされたら、大介さんも気分悪いわよね」
 (あっ!)とひかるは思った。
 (だから昨日大介さんは早く帰りたがらなかったのだ)
 (でも、大介さんは、そんなことを口に出して言う人じゃない……)
 夕子の顔は、自分の所為かも?と言う思いで、しょげていた。
「それは違うわ。大介さんは、そんなことでおじさまと喧嘩するような人じゃないわ」
 ひかるは、夕子の疑念を思いっきり否定した。
「まぁ、大介さんのこと、よくわかるのね」
 そう言われたひかるは、真っ赤になって照れた。
「と、とにかく……夕子さんも気にしないで。あの親子には、普通の親子にはない特別な絆で結ばれてるんだから。……大丈夫……」
 と、夕子には心配しないように笑って応えた。
 改めて車を発進させ、牧場へ向かったが、今度はひかるが気になって仕方がなかった。
 
 
 宇門は、研究所で普段使っているプライベートルームまで大介を引っ張って行った。
「ここなら誰も来ない。今日はとりあえずゆっくり休め」
 そういって、渋る大介をベッドに無理矢理寝かせた。
「いいか!今日は絶対安静だぞ!」
 宇門は、上掛けを掛けてやり、大介に念を押した。
「……父さん……」
 部屋を出ていこうとしている宇門に声をかけた。
 ん?と振り返ったが、その後の言葉は聞き取れなかった。
 次の言葉を待ったが、やがてドアを静かに開けて出ていった。
 
 
 宇門は、観測室のドアの前でため息をつき、気を取り直して中に入った。
「あっ所長」
 佐伯所員が待ちかねたように声をかけた。
「どうしたんだね?佐伯君」
「いえ、どうも怪しい動きがあるんですよ。まだ何とも言えないんですが……」
 宇門は、佐伯の出したデータをのぞき込んだ。
「うーむ。おかしいな……隕石の様だが……それにしては動きが怪しい。スペシャル探査レーダーで資質を分析してみてくれたまえ」
 はい。と言って、佐伯所員はレーダーに探査位置を打ち込んでいた。
「出ました! 表面は隕石と同じですねぇ……」
 コンピュータがはじき出したデータを宇門に渡した。
「うーむ」
「後少し近づけば、メインスクリーンにとらえることが出来ます」
 と、山田所員は伝えた。
 わかった。と宇門は、メインスクリーンの前に座った。
 ピッピッピッ
「メインスクリーン!出ます!」
 山田所員は、メインスクリーンの焦点を絞った。
「あっあれだ!」
 佐伯は叫んだ。
「うーん。まだわからんな。もう少しズームしてくれんか?」
「後少し待ってください」
 ピピピッ
「ズームアップOK!メインスクリーン切り替えます」
「うーん……おかしいぞ?……隕石の中から角らしき物が見える」
「もっと拡大しろ!」
 宇門は、スクリーンを見ながら叫んだ。
 ピピピッ
「あっ!あれは……やっぱり円盤獣だ!隕石でカモフラージュしてるんだ」
「大介君を呼びます!」
 佐伯所員は、緊急コールボタンに手を伸ばした。
「待てっ!」
 宇門は、慌てて制止した。
「だめだっ!今日は、グレンダイザーは出撃出来ない。いや、出撃させない」
「し・しかし……グレンダイザーが出ないとなると、どうやって円盤獣を止めるんですか!?」
「全防衛軍にすぐに連絡してくれたまえ。円盤獣が出撃してきたと。迎撃要請をしてくれ」
「……わかりました」
 と言うと、佐伯所員は、すぐに全防衛軍のホットラインを開いて迎撃要請を送信した。
 (何とかくい止めてくれ……)
 宇門は、目を瞑り祈った。
「円盤獣、大気圏突入!」
「到着予測場所を測定してくれ」
 ピッピッピッ
「出ました!どうやらこの近くですね」
「緊急避難警報を出してくれ。各市町村すべてにだ!」
 わかりました!と佐伯は、スイッチを入れた。
 
 
 ウーン ウーン ウーン
 カーンカーンカーン
 街や村にサイレンが響き渡った。
 いつものごとく、櫓に登って、望遠鏡を覗いていた団兵衛は、
「UFOがくるぞー!」
 と叫んでいた。
「お父さん!」
 夕子と二人で子犬と戯れていたひかるが叫んだ。
 スルスルーっと櫓を滑り下りてきた団兵衛に、お願いと言って子犬を預け、夕子さん行きましょうと夕子の手を無理矢理引っ張った。
「こりゃ!ひかる、どこへ行くんじゃ!?」
「研究所!」
「なんじゃと!待ちなさいぃぃ!ひかるぅ!」
 団兵衛が止めるのも聞かず、夕子をジープに乗せ走りだした。
「いったい急にどうしたの?」
 ひかるの慌てた姿に、夕子は面食らっていた。
「UFOが来たのよ。……大介さんが心配なの……」
 ひかるは、思い詰めた顔で応えた。
「え?どういうこと?」
 夕子は、ひかるが言った意味が分からなかった。
「あっ……いえ、何でもないの。とにかく危ないから研究所に避難しましょう」
 
 
 ウウーン ウウーン
 研究所に緊急警報が鳴り響いた。
 仮眠室で寝ていた甲児と林所員が飛び起きた。
「やべー!」
 と言いながら、甲児は観測室へ向かい、林所員も後に続いた。
 プライベートルームで寝ていた大介も飛び起きた。
「くっそー!」
 上着を脱ぎ、テーピングテープをはずした。
 (父さん すみません……)とつぶやきながら……
 そしてもう一度上着を着込み、観測室へ向かった。
 
 
 観測室に駆け込んできた甲児と林所員は、
「なにがあったんですか?」
「円盤獣だ。こっちに向かっている」
 山田所員が説明した。
 林所員は、いつもの持ち場に入り、データ分析をはじめた。
「ちくしょー!俺に足がないのを知っててやってきやがったな!」
「グレンダイザーはどうしたんですか?もう出撃したんですか?」
「グレンダイザーは出撃しない!」
 振り返らずに宇門は甲児に言い切った。
「え?なぜです?」
 そこへ大介が走り込んできた。
「どうしたんですか?」
「あっ大介君。円盤獣が……」
 山田所員が、説明した。
「出ます!」と大介が走り出そうとすると、
「だめだ!大介はいかせん!」
 宇門は、大声で大介を制した。
 (父さん……)
 大介は拳を握り締めた。
「ええーい!なんなんだ!何があったんだ?」
 甲児はいらついた。
 プ・プ・プ
「所長!防衛軍からの緊急コールです。グレンダイザーの出撃要請が来てます」
 佐伯所員が伝えた。
「無視しろ! とにかくグレンダイザーは出撃しない!いいな!」
 宇門は、みんなに向かって大声で指示した。
「ええーい! 俺がサイクロンビームでやっつけてやる!」
 と言って走り出した。
「待て!甲児君!僕が行く!」
 と大介は甲児を制した。
「だめだ!大介!グレンダイザーは出撃しない!と言っているだろう!」
 宇門はどうあっても譲らない。
「ええーい!」我慢できなくなった甲児は、走り去っていった。
「待ちたまえ!甲児君!」
 宇門が制止したが、後の祭りだった。
 プ・プ・プ
 プ・プ・プ
「所長、全防衛軍緊急コールです。どうしますか?」
 佐伯所員が慌てて尋ねた。
「……」宇門は応えない。
「父さん、行かせてください。お願いします」
 大介が懇願しても宇門は応えなかった。
 リーン・リーン・リーン
 研究所の電話が鳴った。
「無視しろ!」
 リーン・リーン・リーン
「所長、研究所の電話回線が、すべてコールしてます。もうパンク状態です」
 宇門は目を瞑ってただ我慢していた。
「くそっ!」
 とうとう大介は飛び出して行ってしまった。
「待て!大介!」
 宇門が立ち上がって叫んだが、大介は走り去った後だった。
「馬鹿者!」宇門は叫んだ。
 廊下を走りながら、大介は、
 (父さん……すみません……)
 と心の中で叫んだ。
 宇門は中央座席に座り、
「グレンダイザーが出撃する。モニタしてくれ」
 林所員が、モニタのスイッチを入れ、大介の位置をモニタで追っていた。
「グレンダイザー出撃準備完了」
 宇門は、グレンダイザーのコックピットの回線を開いた。
「大介、どうしても行くのか?」
 こくん。と大介はモニタ越しに頷いた。
「いいか大介!絶対無茶はするな!防衛軍にも援護要請しておく」
 こくん。と頷いた大介は、「グレンダイザーGO!」とスロットルを引き、かけ声とともに飛び出して言った。
「全防衛軍に連絡してくれ。グレンダイザーが出撃したと。援護の要請をしてくれ」
 はい。と佐伯所員は、全防衛軍のホットラインをすべてオンにし、送信した。
 
 
 ゴォォォー
「あっ!あれは?」
 夕子は、上空をとんでいくグレンダイザーを見て驚きの声をあげていた。
 (大介さん……出撃したんだわ……)
 ひかるは、大介の無事を祈りながらジープを走らせた。
 
 甲児は、ジープにサイクロン砲を取り付け、円盤獣が暴れている付近目指して走っていた。
「いったい、どうなっちまったんだ?所長と大介さんの間に何があったんだ?」
「グレンダイザーが出ないとなると、もう戦えるのは俺しか残ってねえじゃねぇか!」
「みてろよー!でっかい風穴あけてやるからな!」
 そう言いながら、甲児はアクセル全開で突っ走っていった。
 ゴォォォー!
「あっ?グレンダイザーだ!大介さん、出撃したんだな。よーし!俺も行くぜ!待ってろよ!」
 
 メインスクリーンでは、グレンダイザーと円盤獣の戦闘が繰り広げられていた。
 円盤獣は、変身して虎の様な形になった。頭に角が生えていて、それは一角獣にも見えた。
「大介!気を付けろ!なるべく上空から戦うんだ!敵はどんな戦法で来るかわからんからな!」
 宇門は、グレンダイザーのコックピットのモニタに向かって指示した。
「はい!」
 大介の声がモニタのスピーカーから聞こえてくる。
 
「うむ……」
 宇門は、円盤獣の目的を探っていた。
「なぜあんなところに円盤獣がやってきたんだろう?あそこは、死火山と高い山脈があるだけで、別段取りたてて何もないはずだが……」
 宇門は不思議に思った。
 佐伯所員は円盤獣が降り立った付近の探査をしていた。
「そうだ!あそこは確か……」
 カチャカチャカチャ……
 佐伯は、心当たりのあるポイントを打ち込んでみた。
「やっぱり……」佐伯所員は、目を見張った。
「所長!あの山岳地帯のところに国防軍の秘密基地があるんです。まだ建設中なのでおおっぴらにされていないんですが……」
「え?なんだって?」
「なんでも、対UFO用の基地らしいんです。見かけは観測所ぐらいにしか見えませんが、地下にかなりの設備を設置する事になっています。……ちょっと待ってください……」
 佐伯は、自身のコンピュータを操作仕始めた。
 あぁやっぱり……
「一昨日、メインエンジンを機動させてますね。もしかしたら、この強力なパワーをベガ星連合軍がキャッチしたのかもしれません!」
「そうだったのか……道理で……最近頻繁に国防軍がうちにコンタクトしてきてるのはその為か!」
 宇門は、腕組みをし、佐伯所員の情報を聞いていた。
「で、一斉に防衛軍がグレンダイザーの出撃要請してきたのだな……いつもよりあたふたとコールしてきたからな……」
「大介は、いわば盾か! くそ!」
「しかし、佐伯君 なぜそんな情報を持ってるんだい?それは軍の、いわばトップシークレットじゃないのか?」
「え?あっ……あの……軍に友人がいまして……」
 佐伯所員は、頭を掻いて、言葉を濁した。
「気を付けたまえ。悪けりゃスパイ容疑で拘留されかねんぞ!」
 宇門は、じろっと睨んだ。
「あはは!そんなドジはしませんよ……ちゃんと痕跡は消してますから……あっ、おっと……」
 佐伯所員は、慌てて口を塞いだ。
 メインスクリーンでは、グレンダイザーが虎の様な円盤獣と激しい戦闘が続いていた。
「大介!どうやらその付近に国防軍が基地を建設中らしい。奴らの目的は多分その基地を破壊することだ」
「わかりました!」
 スピーカーから大介の声が帰ってくる。

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